2026年2月13日
毎年夏から秋にかけて日本列島を襲う「台風」。
ニュースでは連日進路予想が報じられ、私たちはその動向に一喜一憂します。しかし、同じ「台風」でも、沖縄で受ける影響と北海道で受ける影響が全く異なることをご存知でしょうか?
「うちは台風があまり来ない地域だから大丈夫」
「九州だから台風には慣れている」
こうした地域ごとの「慣れ」や「油断」が、近年の気候変動による「想定外」の被害を招く原因となっています。
実は、台風はその発生場所こそ南の海上ですが、日本列島への「接近・上陸傾向」には明確な地域差(偏差)が存在します。
さらに、地形や緯度によって「風が怖い地域」「雨が怖い地域」「フェーン現象による火災や熱波が怖い地域」といった、被害の質的な違いもあるのです。
本記事では、気象庁の過去数十年分の統計データと気象学的なメカニズムに基づき、都道府県ごとの台風リスクの特徴を徹底解剖します。
あなたの住む地域がどのような「台風の癖」を持っているのかを知り、正しい防災対策につなげてください。
この記事でわかる日本の台風事情
- 「台風銀座」と呼ばれる沖縄・九州エリアの圧倒的な接近数と対策文化
- なぜ関東や東北の台風被害は「水害」がメインになりやすいのか?
- 日本海側を襲う「フェーン現象」という見えない台風被害
- 北海道に到達する台風が「温帯低気圧」に変わっても危険な理由
- 統計データから見る「台風が来やすい県・来にくい県」の真実
目次
そもそも「台風」はどこで生まれ、なぜ日本に来るのか
地域別の特徴に入る前に、前提となる台風のメカニズムを整理しておきましょう。
誤解されがちですが、台風は「都道府県別」に発生するものではありません。
すべての台風は、赤道に近い熱帯の海上で発生します。
太平洋高気圧という「見えない壁」
日本の南海上、フィリピンの東あたりで発生した台風は、自力で移動する力を持っていません。
周囲の風に流されて移動するのですが、そのルートを決める最大の要因が「太平洋高気圧」です。
夏場、太平洋高気圧は日本列島を覆うように張り出しています。
台風はこの高気圧の中に入り込むことができず、高気圧の「縁(ふち)」に沿って時計回りに移動します。
これを「縁辺流(えんぺんりゅう)」と呼びます。
- 7月〜8月: 太平洋高気圧の勢力が強く、日本をしっかり覆っているため、台風は大陸(中国・朝鮮半島)方面へ向かうことが多い。
- 9月〜10月: 太平洋高気圧が徐々に東へ退き、日本列島の上空に「偏西風」が南下してくる。台風は高気圧の縁を回って北上し、偏西風に乗って日本列島を縦断するコースを取りやすくなる。
つまり、季節によって「通り道」が変わるため、地域によって台風シーズンや被害のリスクが異なるのです。
ここからは、エリアごとの具体的な特徴を見ていきましょう。
【沖縄・奄美】最強の勢力で襲来する「台風の銀座」
日本で最も台風の影響を受けるのが、沖縄県と鹿児島県の奄美地方です。
この地域は「台風の通り道」であり、統計的にも接近数が他県を圧倒しています。
特徴1:勢力が衰えない「全盛期」の直撃
台風は海面水温が高いほどエネルギーを供給され、発達します。
沖縄周辺の海は水温が高く、台風は「最盛期」の勢力を維持したまま直撃します。
最大瞬間風速60m/s、70m/sといった、車が横転し、電柱がなぎ倒されるような猛烈な風が吹くのが最大の特徴です。
本州では「雨台風」が多いのに対し、沖縄・奄美は明確な「風台風」の被害が目立ちます。
特徴2:速度が遅く、影響が長時間続く
この海域では、台風を移動させる偏西風が弱いため、台風の移動速度が非常に遅くなることがあります(自転車並みの速度など)。
そのため、暴風域に丸一日、時には二日間入り続けることも珍しくありません。
物流が完全にストップし、スーパーから食料が消える期間が長引くのも、離島ならではのリスクです。
独自の「台風文化」と対策
これほど過酷な環境であるため、沖縄の建築は台風対策に特化しています。
伝統的な赤瓦の屋根は漆喰で固められ、現代の住宅は鉄筋コンクリート造(RC造)が主流です。
「雨戸がない家はない」と言われるほど窓の防護も徹底しており、住民の防災意識レベルは日本一と言えるでしょう。
【九州・四国】日本列島の防波堤、上陸数のトップランナー
沖縄を通過した台風が、最初に向かう本土が九州(特に鹿児島、宮崎、熊本)と四国(高知)です。
統計上の「上陸数」では、鹿児島県と高知県が常に上位を争っています。
山脈による「記録的大雨」の発生
この地域の特徴は、急峻な山脈(九州山地、四国山地)が存在することです。
台風が運んでくる湿った空気が山にぶつかると、強制的に上昇気流が発生し、猛烈な雨雲が発達します。
これにより、台風の中心から離れていても、山沿いの地域では総雨量1,000ミリを超えるような記録的大雨になることがあります。
風の被害もさることながら、土砂災害や河川の氾濫といった「水害」のリスクが非常に高いエリアです。
「危険半円」に入りやすい地理的宿命
台風の進行方向に対して右側を「危険半円」、左側を「可航半円」と呼びます。
右側は台風自身の風に移動速度が加算されるため、風が強くなります。
九州や四国に上陸するコースの場合、太平洋側(宮崎、高知など)は危険半円に入りやすく、猛烈な暴風雨に晒され続けます。
【近畿・東海・関東】都市機能を麻痺させる「インフラ被害」
本州の太平洋側、特に人口が集中する大阪、名古屋、東京を含むエリアは、台風が直撃すると経済的・社会的ダメージが甚大になります。
9月以降の台風は偏西風に乗って速度を上げながら、このエリアを縦断するコースを取ることが多くなります。
湾岸部を襲う「高潮」の恐怖
大阪湾、伊勢湾、東京湾はいずれも南に開いた湾の形状をしています。
南から台風が接近すると、強い南風によって海水が湾奥に吹き寄せられ、さらに気圧低下による吸い上げ効果で海面が上昇し、「高潮」が発生しやすくなります。
過去の伊勢湾台風や平成30年台風21号(関西空港が水没)のように、湾岸エリアや埋立地における浸水被害が顕著です。
都市特有の「ビル風」と「内水氾濫」
高層ビルが立ち並ぶ都市部では、台風の風がビルの間で収束し、局地的に風速が増す「ビル風」が発生します。
これにより、看板の落下や街路樹の倒木、ガラスの破損などの被害が多発します。
また、コンクリートで覆われた都市は雨水の逃げ場がなく、下水道の処理能力を超えた雨水が溢れ出す「内水氾濫」による地下街や地下鉄の浸水リスクも、このエリア特有の問題です。
【東北・北海道】「温帯低気圧=安全」ではない
「北海道には台風は来ない」というのは過去の話になりつつあります。
確かに上陸数は少ないですが、近年は海水温の上昇により、勢力を維持したまま北上するケースが増えています。
温帯低気圧化による「再発達」と広範囲の強風
北日本に達する頃、台風は「温帯低気圧」に性質を変えることが多いですが、これは「弱まる」ことを意味しません。
北からの寒気を取り込んで「再発達」し、台風以上の強風域を広げることがあります。
台風は中心付近が最強ですが、温帯低気圧は中心から離れた場所でも強風が吹くため、被害範囲が広大になります。
農業への甚大なダメージ
東北や北海道は日本の食糧庫です。
台風シーズンである8月〜10月は、リンゴや米、ジャガイモなどの収穫時期と重なります。
強風による落果や、大雨による農地の冠水は、地域経済に深刻な打撃を与えます。
また、屋根の構造などが台風仕様になっていない(トタン屋根など)家屋も多く、風による損壊被害が出やすいのも特徴です。
【日本海側】台風が遠くても起きる「フェーン現象」の脅威
北陸や山陰などの日本海側は、太平洋側に比べると台風の直撃数は少ない傾向にあります。
しかし、台風が太平洋側を通っている時や、日本海を進んでいる時、特有の現象に見舞われます。
山を越えて吹き下ろす熱風
台風に向かって吹き込む湿った南風が、日本列島の中央にある山脈(日本アルプスなど)を越える際、雨を落として乾燥し、日本海側に吹き下ろします。
断熱圧縮により気温が上昇した乾燥した強風、これが「フェーン現象」です。
これにより、台風の中心から遠く離れていても、猛烈な暑さと乾燥した強風が発生します。
過去には、このフェーン現象による強風下で大規模な火災(糸魚川市大規模火災など※要因の一つ)が発生し、延焼が拡大した事例もあります。
「雨が降っていないから大丈夫」ではなく、「乾燥した強風による火災リスク」や「熱中症」に警戒が必要なエリアです。
統計データで見る「接近数」ランキング
気象庁の統計データ(1951年からの記録)に基づき、台風の接近数が多い都道府県の傾向を見てみましょう。
(※「接近」とは、台風の中心が各都道府県の気象官署等から300km以内に入った場合を指します)
| 順位 | 都道府県 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1位 | 沖縄県 | 圧倒的な接近数。春から秋まで長期間警戒が必要。 |
| 2位 | 東京都 (伊豆諸島・小笠原) |
実は東京は上位。これは広大な島嶼部(伊豆諸島など)が含まれるため。本土への接近とは区別が必要。 |
| 3位 | 鹿児島県 | 九州の玄関口。本土ではトップクラスの接近・上陸リスク。 |
| 4位〜 | 高知・和歌山など | 太平洋に突き出た地形のため、台風の進路になりやすい。 |
逆に、接近数が比較的少ないのは、内陸部(長野県、群馬県など)や日本海側の一部です。
しかし、「少ない=来ない」ではありません。一度接近した際の被害は、備えが薄い分、大きくなる傾向があります。
都道府県別リスクまとめ:あなたの街の「弱点」
最後に、地域ごとの「特に警戒すべきポイント」をまとめます。
- 沖縄県: 「暴風」と「長期間の孤立」。停電対策と食料備蓄が最優先。窓ガラスの補強(雨戸やフィルム)は必須。
- 九州・四国(太平洋側): 「土砂災害」と「河川氾濫」。山間部や川沿いに住む人は早めの避難を。雨戸がない家も多いため、飛来物対策を。
- 近畿・東海・関東: 「交通麻痺」と「内水氾濫」。帰宅困難になるリスクを考慮し、無理な出勤や外出を控える。マンション低層階や地下駐車場は浸水対策を。
- 東北・北海道: 「不慣れによる油断」と「農業被害」。強風で屋根が飛ぶ事例が多い。収穫前の農作物の管理や、屋外の飛びやすいものの固定を徹底する。
- 日本海側: 「フェーン現象」による火災と熱中症。台風が遠くても風が強まるため、火の取り扱いに注意し、強風による飛来物に警戒する。
まとめ:過去のデータは「未来の予言」ではない
都道府県別に台風の傾向を見てきましたが、忘れてはならないのは「気候変動により、これまでの統計が通用しなくなりつつある」という事実です。
海水温の上昇により、台風はより北の緯度まで勢力を保ったまま到達するようになり、発生コースも多様化しています。
「今まで被害がなかったから」という経験則は、もはや命取りになりかねません。
自分の住む地域が「風に弱いのか」「水に弱いのか」という地理的・地形的特性を理解し、ハザードマップを確認すること。
それが、あなたと大切な人の命を守る第一歩となります。
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