2026年2月12日
「うちは川の近くじゃないから大丈夫」
「マンションの高層階だから、水害なんて関係ない」
日本に住んでいる限り、もはやその常識は通用しない時代になりました。
毎年のように発生する「線状降水帯」による集中豪雨、勢力を維持したまま上陸する巨大台風。これらがもたらす水害は、河川の氾濫だけではありません。
都市部の排水能力を超えた雨水がマンホールから溢れ出す「内水氾濫(ないすいはんらん)」により、海や川から離れた住宅街でも、ある日突然、泥水が家に押し寄せるリスクが高まっています。
水害の恐ろしさは、水が引いた後に残る「絶望的な復旧作業」と「莫大な修理費用」にあります。
泥に浸かった床や壁はすべて剥がして消毒し、断熱材を入れ替えなければなりません。
家具や家電は全滅し、汚泥の撤去だけでも数十万円がかかります。
一般的な戸建て住宅で床上浸水した場合、その復旧費用は数百万円〜一千万円を超えることも珍しくありません。
この経済的破綻を防ぐ唯一の命綱が「火災保険の水災補償」です。
しかし、この水災補償は、火災保険の中で最も認定基準が複雑で、誤解が多い分野でもあります。
「床下浸水だと1円も出ないって本当?」
「45cmという基準は何?」
「土砂崩れは水災?それとも別の補償?」
本記事では、日本を襲う水害の現実と、実際に被害に遭った際に火災保険がどこまでカバーしてくれるのか、その複雑な「支払い要件」と「給付額の目安」について、約款の裏側まで踏み込んで徹底的に解説します。
この記事で解き明かす水災補償の全貌
- 「外水氾濫」と「内水氾濫」の違いと、保険適用の範囲
- 支払い可否の分かれ道となる「床上浸水」と「地盤面45cm」の鉄則
- マンション高層階でも水災補償を外してはいけない理由
- 「土砂崩れ」は水災? 地震による津波は? 災害種別の境界線
- 被害額1,000万円でいくら受け取れる? 契約タイプ別シミュレーション
目次
日本の住宅を襲う「水」の脅威:2つの氾濫パターン
保険の話に入る前に、敵を知る必要があります。
なぜ今、これほどまでに水害への備えが叫ばれているのでしょうか。
それは、都市構造の変化と気候変動により、被害のパターンが多様化しているからです。
1. 外水氾濫(がいすいはんらん):河川からの越水
これは従来からある典型的な洪水です。
大雨によって河川の水位が上昇し、堤防を超えたり(越水)、堤防が決壊したりして、市街地に濁流が流れ込む現象です。
ハザードマップで「洪水浸水想定区域」に指定されているエリアは、このリスクが非常に高い場所です。
一度発生すると浸水深が数メートルに達することもあり、家屋の流出や全壊といった壊滅的な被害をもたらします。
2. 内水氾濫(ないすいはんらん):都市型水害
今、最も警戒すべきなのがこの「内水氾濫」です。
川が決壊していなくても、下水道や排水路の処理能力を超える雨が短時間に降ることで、行き場を失った雨水がマンホールや側溝から溢れ出し、街が水没する現象です。
アスファルトで覆われた都市部では、雨水が地面に浸透せず、一気に排水溝へ流れ込みます。
「高台だから」「川から遠いから」と油断していると、周囲の道路が冠水し、自宅の駐車場や半地下部分に水が流れ込んでくるのです。
火災保険の水災補償は、この「内水氾濫」もしっかりと補償対象としています。
火災保険における「水災」の定義とは?
火災保険において「水災」として扱われる事故は、以下の3つに大別されます。
- ① 洪水・融雪洪水:
台風や暴風雨による河川の氾濫、集中豪雨による浸水。雪解け水による洪水も含まれます。 - ② 高潮(たかしお):
台風などの低気圧や強風によって海水面が上昇し、海水が防波堤を超えて陸地に浸入する被害。
※津波は対象外(後述)。 - ③ 土砂崩れ・落石:
豪雨によって地盤が緩み、崖崩れや地滑りが発生して建物が巻き込まれる被害。
「土砂」ですが、原因が雨であれば「水災」のカテゴリになります。
これらによって、「建物」や「家財」に損害を受けた場合に保険金が支払われます。
ただし、無条件に支払われるわけではありません。
ここからが、水災補償の最も難解で重要なポイントである「認定基準」の話です。
支払い可否の分かれ道:「認定基準」の鉄則
一般的な火災保険の水災補償には、明確な「支払い要件」が設定されています。
被害があっても、以下の基準を満たさない限り、保険金は1円も支払われない(または少額の見舞金のみ)可能性があります。
【水災補償の支払い要件】
次のいずれかに該当する場合に補償されます。
- 再調達価額の30%以上の損害を受けた場合
- 「床上浸水」となった場合
- 「地盤面から45cm以上」の浸水があった場合
この3つの基準について、詳しく解説します。
1. 再調達価額の30%以上の損害
建物の価値(新しく建て直すのに必要な金額=再調達価額)の30%以上の損害が発生した場合です。
例えば、建物の評価額が2,000万円の場合、600万円以上の損害があれば認定されます。
家が流されたり、土砂崩れで全壊したりした場合はこれに該当し、全額(保険金額を上限)が支払われます。
2. 「床上浸水」の意味
居住部分の床(畳やフローリング)を超える高さまで水が来た場合です。
これが認定されれば、損害額が30%未満であっても保険金が支払われます。
床上浸水は生活基盤を破壊する甚大な被害であるため、補償の対象となります。
3. 「地盤面から45cm」という壁
ここが最も注意すべきポイントです。
「床下浸水」であっても、地盤面(家の基礎周辺の地面)から45cmを超える浸水であれば、補償対象となります。
なぜ「45cm」なのか?
日本の一般的な木造住宅の床高(地面から床までの高さ)が約45cmだからです。
つまり、45cmを超えれば実質的に床上浸水に近い被害(断熱材や配管へのダメージ)が想定されるため、救済措置として設定されています。
逆に言えば、「地盤面から30cmの床下浸水」で、かつ「損害額が建物の30%未満」の場合、一般的な火災保険では保険金が下りないケースが多いのです。
(※最近の保険商品には、特定設備特約などで少額補償するプランもありますが、基本的には対象外または見舞金程度です)
マンション高層階でも水災補償は必要か?
「マンションの10階に住んでいるから、水災補償は外して保険料を安くしよう」
そう考える方は多いですが、ここには大きな落とし穴があります。
電気設備というアキレス腱
近年のタワーマンション水害で記憶に新しいのが、地下にある電気設備(受変電設備)の浸水です。
地下が浸水して電気が止まれば、エレベーターは停止し、給水ポンプも動かず断水し、トイレも流せなくなります。
高層階の部屋自体は無事でも、生活そのものが破綻します。
管理組合が加入する「共用部分」の保険で修理はされますが、復旧までの仮住まい費用や、専有部分(部屋)に付随する損害は自己負担です。
また、ベランダの排水溝が詰まって部屋に水が入ってくる「漏水」リスクもゼロではありません。
マンションであっても、ハザードマップで浸水リスクがあるエリアなら、水災補償は検討すべきです。
「家財」の補償を忘れていませんか?
水害時、建物以上にダメージを受けるのが「家財(家具・家電・衣類)」です。
泥水を被った冷蔵庫、洗濯機、ソファ、ベッド、布団は、衛生面から再利用が難しく、ほぼ全て廃棄処分となります。
これらを買い直すだけでも数百万円の出費になります。
火災保険は「建物」と「家財」を別々に契約するのが基本です。
もし「建物のみ」で契約していた場合、家が直っても、生活に必要なモノを買い揃えるお金は1円も出ません。
水害リスクが高い地域では、家財保険の加入、そしてその中の「水災補償」の有無を必ず確認してください。
間違いやすい「補償対象外」のケース
水による被害でも、以下のケースは火災保険の「水災」では補償されません。
ここを混同していると、いざという時に泣きを見ることになります。
1. 津波による被害
地震によって発生した津波による浸水・流失は、火災保険の「水災」ではなく、「地震保険」の対象です。
火災保険に水災補償をつけていても、地震保険に入っていなければ、津波被害は補償されません。
(※一部の特約で少額の見舞金が出るケースはありますが、再建費用には足りません)
2. 雨漏り・吹き込み
台風で屋根が飛んで雨が入ってきた場合は「風災」として補償されます。
しかし、建物の老朽化によって隙間から雨が入ってきた(雨漏り)場合や、窓の閉め忘れで雨が吹き込んだ場合は、管理不備や経年劣化とみなされ、補償対象外となります。
3. 自動車の水没
ガレージにある車が水没した場合、火災保険の家財では補償されません。
自動車は「自動車保険(車両保険)」でカバーする必要があります。
ただし、車両保険でも「一般条件」か「車対車+A(エコノミー)」でなければ、台風・洪水が対象外の場合があるため確認が必要です。
給付額シミュレーション:1,000万円の被害でいくら出る?
実際に被災した場合、いくら受け取れるのでしょうか。
「実損払い」と「比例払い」など、契約タイプによって大きく異なります。
【ケーススタディ】
建物評価額(新価):2,000万円
実際の修理費用(損害額):1,000万円(床上浸水)
パターンA:最近の主流「実損払い」タイプ
保険金額を2,000万円で設定していれば、損害額の1,000万円全額が支払われます。
※さらに「臨時費用特約(見舞金)」などがあれば、+100万〜300万円が上乗せされます。
パターンB:古い契約「フランチャイズ」や「縮小てん補」タイプ
「水災は損害額の70%まで」といった制限がある場合、700万円しか支払われません。
残りの300万円は自己負担となります。
古い火災保険をそのままにしている方は、水災時の支払いが「70%縮小」などになっていないか、至急証券を確認してください。
いざという時に「修理費が足りない!」という事態に陥ります。
請求から着金までの5ステップと注意点
水害発生時は混乱しますが、保険請求のためには「証拠」が命です。
以下の手順で確実に手続きを進めましょう。
- 写真撮影(最重要):
片付けを始める前に、必ず被害状況を撮影してください。
「どこまで水が来たか」が分かるように、メジャーを当てた写真(浸水高の証明)が必要です。
家財も、捨てる前に全ての写真を撮ってください。 - 保険会社への連絡:
代理店またはコールセンターへ事故連絡を入れます。 - 罹災(りさい)証明書の取得:
自治体に申請し、被害認定を受けます。「床上浸水」「床下浸水」などの公的な証明になります。
※保険会社によっては、罹災証明書なしで写真と見積もりだけで支払いを進めてくれる場合もあります(早期払い)。 - 修理業者への見積もり依頼:
復旧にかかる費用の見積もりを取ります。 - 保険金の請求・入金:
書類を提出し、鑑定人による調査(必要な場合)を経て、保険金が確定・入金されます。
まとめ:ハザードマップと証券を今すぐ重ね合わせよう
水害は、一度発生すると生活の全てを奪いかねない恐ろしい災害です。
しかし、正しい知識と適切な保険があれば、経済的な再起は可能です。
まずやるべきことは、自治体の「ハザードマップ」を確認すること。
自分の家が、洪水や内水氾濫のリスクエリアにあるかを知ってください。
そして、保険証券を確認し、「水災補償がついているか」「支払い条件は実損払いか」「家財もカバーされているか」をチェックしてください。
もし不安があれば、保険のプロや申請サポートの専門家に相談し、万全の備えをしておくことを強くお勧めします。
水が来てからでは、保険には入れません。
晴れている今こそが、家を守る決断をする時です。
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