火災保険・地震保険の給付金に税金はかかる?知らないと損する確定申告のポイント

「台風で屋根が壊れて、保険金が100万円振り込まれた。これって所得になるの?」
「火事で家が全焼し、数千万円の保険金を受け取った。来年の税金が怖い……」

予期せぬ災害や事故に見舞われた際、経済的な支えとなるのが火災保険や地震保険です。
しかし、まとまった金額が口座に振り込まれると、次に頭をよぎるのは「税金」の二文字ではないでしょうか。
日本では、働いて得た給与はもちろん、宝くじ以外の臨時収入の多くに税金がかかります。
では、保険金はどうなのでしょうか?

結論から申し上げますと、個人が受け取る損害保険金は、原則として「非課税」です。
しかし、これには「原則として」という注釈がつきます。
積立型保険の満期返戻金や、個人事業主が受け取る場合、あるいは「雑損控除」を使って税金を安くしようとする場合には、複雑な税務知識が必要になります。

「知らなかった」では済まされない税金の世界。
逆に言えば、正しい知識を持っていれば、被災した年度の税金を大幅に減らし、手元に残るお金を増やすことも可能です。
本記事では、火災保険・地震保険の給付金にまつわる税金の仕組みから、確定申告で得するテクニック、個人事業主・法人ならではの会計処理まで、網羅的に解説します。

この記事でわかる保険と税金の真実

  • なぜ数百万円受け取っても税金がかからないのか? 法的根拠と仕組み
  • 税務署が目を光らせる「課税される保険金」の例外ケース
  • 被災時の強い味方「雑損控除」と保険金の損益分岐点
  • 個人事業主・法人が受け取る場合の「圧縮記帳」という節税テクニック
  • マンション管理組合が受け取った保険金の税務処理はどうなる?

原則:「マイナスをゼロに戻す」お金に税金はかからない

まず、最も基本的なルールから解説します。
個人が、自宅や家財の損害を補償するために受け取る保険金には、所得税・住民税・贈与税などの税金は一切かかりません。
確定申告をする必要もありません。

「利益」ではないという考え方

税金とは、基本的に「利益(儲け)」に対して課せられるものです。
火災保険や地震保険は、火事や災害によって失われた資産(マイナス)を、元の状態に戻す(ゼロにする)ための補填です。
資産価値がマイナスになった分を埋め合わせているだけなので、そこに「利益」は発生していないという解釈になります。

これは所得税法によってはっきりと定められています。

【所得税法第9条(非課税所得)】
第1項第17号
保険業法に規定する損害保険会社…(中略)…が支払う保険金又は共済金で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するもの…(中略)…については、所得税を課さない。

対象となる主な保険金

以下の理由で受け取ったお金は、金額の多寡に関わらず非課税です。

  • 火災保険金: 火事、落雷、爆発などで建物や家財が損害を受けた場合。
  • 風災・水災・雪災の保険金: 台風で屋根が飛んだ、洪水で床上浸水した、雪で雨どいが壊れた場合。
  • 地震保険金: 地震による倒壊、津波、火災で損害を受けた場合。
  • 見舞金(臨時費用保険金): 損害保険金に上乗せして支払われる「使い道自由」なお金。
  • 個人賠償責任保険金: 子供が他人の物を壊してしまった場合の補償など。

「修理しなくても」非課税のまま

よくある質問に、「保険金を受け取ったけれど、修理せずに貯金に回した。これは所得になるのか?」というものがあります。
答えは「所得にはならず、非課税のまま」です。

火災保険金は「損害が生じた事実」に対して支払われるものであり、「修理すること」が受給の条件ではないからです(※一部の特約や実費払いの契約を除く)。
修理に使っても、生活費に使っても、貯金しても、税務署から追及されることはありません。
ただし、修理しないまま放置して再度同じ箇所が壊れた場合は、二度目の保険金は下りないため注意が必要です。

要注意!税金がかかってしまう「例外ケース」

「原則非課税」と安心するのはまだ早いです。
保険の種類や受け取り時の状況によっては、課税対象となる落とし穴が存在します。

1. 積立型保険の「満期返戻金」

掛け捨てではなく、満期が来るとお金が戻ってくる「積立型火災保険」の場合。
満期返戻金は、損害の補填ではなく「貯蓄・運用の成果」とみなされます。
支払った保険料の総額よりも、受け取った返戻金の方が多かった場合、その差益は「一時所得(または雑所得)」として課税対象になります。

  • 契約者と受取人が同じ場合: 所得税(一時所得)
  • 契約者と受取人が違う場合(例:夫が掛けて妻が受け取る): 贈与税

2. 火災で死亡し「死亡保険金」が出た場合

火災保険の特約で、火災による死亡時に保険金が出るケースがあります。
この場合、受け取ったお金は「損害の補填」ではなく、生命保険と同じ扱いになります。
つまり、「相続税」(受取人が法定相続人の場合)や「所得税・贈与税」の対象となります。

3. 店舗併用住宅で「休業補償」を受け取った場合

自営業の方が、店舗兼住宅で火災に遭い、営業できない期間の利益を補償する「店舗休業保険金」などを受け取った場合。
これは「失われた利益の補填」=「本来得られるはずだった売上」とみなされるため、「事業所得」として課税対象になります。
建物の修理費部分は非課税ですが、休業補償部分は課税されるという「仕分け」が必要です。

知らないと損!被災時の減税措置「雑損控除」

ここからが本記事のハイライトです。
災害に遭ったとき、保険金を受け取るだけでなく、確定申告を行うことで「税金が戻ってくる(安くなる)」制度があります。
それが「雑損控除(ざっそんこうじょ)」です。

雑損控除とは何か?

震災、風水害、火災などの災害や、盗難・横領によって資産に損害を受けた場合、一定の金額を所得から差し引くことができる制度です。
サラリーマンであっても、確定申告をすることで適用され、払いすぎた源泉所得税が還付される可能性があります。

保険金を受け取ると使えない?

ここが重要な計算ポイントです。
雑損控除の計算式には、「受け取った保険金」を差し引くというルールがあります。

【雑損控除額の計算式】

次のいずれか多い方の金額が控除されます。

  1. (損害金額 + 災害関連支出 - 保険金等) - (総所得金額等 × 10%)
  2. (災害関連支出 - 保険金等) - 5万円

シミュレーション①:保険金で全額カバーできた場合
損害額100万円に対し、保険金が100万円下りた。
→ 「損害額 - 保険金」がゼロまたはマイナスになるため、雑損控除は使えません。
(損をしたわけではないので、税金の優遇もありません)

シミュレーション②:保険金では足りなかった場合
損害額300万円、片付け費用(災害関連支出)50万円。
保険金は200万円しか下りなかった。(所得は500万円とする)

  • 実質的な損失: (300万 + 50万) - 200万 = 150万円
  • 所得の10%: 500万 × 10% = 50万円
  • 控除額: 150万 - 50万 = 100万円

この場合、所得からさらに100万円を差し引くことができます。
所得税率が20%だとすれば、約20万円の税金が戻ってくる計算になります。
「保険金だけで修理費が賄えなかった」という方は、必ず確定申告で雑損控除を検討してください。

災害減免法との選択

災害によって住宅や家財の時価の50%以上の損害を受け、かつ所得が1,000万円以下の場合、「災害減免法」による税金の免除・軽減措置を選ぶこともできます。
雑損控除とどちらが得かはケースバイケースですが、一般的には「所得が低い場合は雑損控除、所得が高い場合は災害減免法」が有利になる傾向があります。
両方は使えないため、シミュレーションが必要です。

【個人事業主・法人】事業用資産の保険金と会計処理

ここまでは「個人の生活用資産」の話でした。
では、個人事業主の店舗や、法人が所有する工場などが被災し、保険金を受け取った場合はどうなるでしょうか。
ルールがガラリと変わります。

事業用資産の保険金は「収入(益金)」になる

事業用の建物、機械、商品などが損害を受けて受け取った保険金は、原則として全額が「収入金額(法人の場合は益金)」として計上されます。
勘定科目は「雑収入」や「保険差益」などを使います。

「えっ、税金がかかるの?」と驚かれるかもしれませんが、同時に、被災した資産の損失額(帳簿価額)や修繕費は「必要経費(損金)」として計上できます。
結果として、プラス(保険金)とマイナス(損失・修繕費)が相殺されれば、課税所得は増えません。

タイミングのズレが生む「税金の悲劇」

問題は、保険金の入金と、修繕費の支払いが「決算期をまたぐ」場合です。

  • 今期: 保険金1,000万円が入金された(収益計上)。しかし工事が間に合わず、支払いは来期になる。
  • 結果: 今期の利益が1,000万円増えたとみなされ、法人税が数百万円増える。手元の現金が税金で消え、来期の修理代が払えなくなる。

このような資金繰りの悪化を防ぐためにあるのが、「圧縮記帳(あっしゅくきちょう)」という特例です。

圧縮記帳で課税を繰り延べる

圧縮記帳とは、受け取った保険金で代わりの資産(代替資産)を取得した場合、保険金のうち利益となる部分を、新しく買った資産の取得価額から減額する処理のことです。

簡単に言えば、「保険金にかかる税金を、今すぐ払うのではなく、将来に先送りする」制度です。
これにより、今期にドカンと税金を取られるのを防ぎ、保険金全額を再建費用に充てることができます。
※非常に専門的な会計処理が必要になるため、必ず税理士に相談してください。

消費税の扱いに注意

事業者が受け取る保険金は、消費税の課税対象(資産の譲渡等の対価)にはなりません。「不課税取引」です。
一方、そのお金で修理業者に支払う修繕費には消費税がかかります。
消費税の計算においては、「受け取った消費税(0円)」-「支払った消費税」となるため、支払う消費税額が減る(または還付される)要因になります。
これを間違えて保険金を「課税売上」にしてしまうと、無駄な消費税を払うことになります。

よくある質問:マンション管理組合や共有名義の場合

特殊なケースについても解説します。

マンション管理組合が受け取る保険金

マンションの共用部分(エントランスや外壁など)が被災し、管理組合が保険金を受け取った場合。
管理組合は原則として非課税(人格のない社団等)ですが、収益事業を行っている場合は注意が必要です。
ただし、火災保険金は収益事業の収入ではないため、基本的には非課税となります。
(※駐車場を外部貸しして収益事業とみなされている場合でも、保険金自体は非課税所得となるのが通例です)

親子や夫婦で共有名義の場合

建物が夫婦の共有名義(持分50:50)で、火災保険の契約者が夫の場合。
保険金は契約者である夫の口座に全額振り込まれることが多いですが、実質的には妻の持分に対する補償も含まれています。
これを夫が全額自分のものとして使い込むと、妻への贈与とみなされるリスクは低いですが、修理代も持分に応じて負担するのが自然です。
税務署に突っ込まれないためには、「保険金は全額修理に使った」という記録(見積書、領収書)をしっかり残しておくことが重要です。

年末調整・確定申告での「保険料控除」も忘れずに

ここまでは「保険金を貰うとき」の話でしたが、最後に「保険料を払うとき」の節税メリットについても触れておきます。
毎年(または数年ごと)払っている保険料の一部は、税金から控除できます。

地震保険料控除

地震保険に加入している場合、支払った保険料に応じて、所得税(最大5万円)と住民税(最大2万5千円)の控除が受けられます。
年末調整や確定申告の際に、保険会社から送られてくる「控除証明書」を提出するだけです。
これは非常に大きな節税効果がありますので、絶対に見逃さないでください。

火災保険料控除は廃止済み

残念ながら、火災保険料に対する控除(旧損害保険料控除)は、平成18年の税制改正で廃止されました。
現在も対象となるのは、平成18年末までに契約した長期の積立型保険など、ごく一部の「経過措置」対象契約のみです。
一般的な掛け捨ての火災保険料は、個人の場合は控除対象外です。
(※個人事業主や法人の場合は、全額を経費計上できます)

まとめ:正しい知識で資産を守ろう

火災保険や地震保険の給付金は、被災した生活を立て直すための大切なお金です。
個人の場合、基本的には「非課税」ですので、安心して受け取り、修理や生活再建に役立ててください。

しかし、以下のようなケースでは注意が必要です。
・保険金だけでは損失をカバーしきれなかった(→ 雑損控除で税金を取り戻すチャンス)
・事業用資産で保険金を受け取った(→ 圧縮記帳決算期の対策が必要)
・満期返戻金や死亡保険金を受け取った(→ 一時所得相続税の対象)

保険金は受け取って終わりではありません。
その後の税務処理まで含めてが「災害対策」です。
特に被害額が大きい場合や、事業を行っている場合は、自己判断せず、必ず税理士や税務署に相談することをお勧めします。
知識という「備え」で、あなたの大切な資産を二重に守りましょう。


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