火事で壊れた家はどこまで補償?火災保険の修理範囲と給付額をわかりやすく解説

「まさか自分の家が火事になるなんて」
火災に遭われた方のほとんどが、そう口にします。突然の炎によって、思い出の詰まった我が家や家財が一瞬にして失われる喪失感は、筆舌に尽くしがたいものがあります。

しかし、悲しみに暮れる間もなく、現実的な問題が押し寄せてきます。
焼け残った家の解体、仮住まいの手配、そして生活の再建。
これらには莫大なお金がかかります。

ここで頼みの綱となるのが「火災保険」ですが、多くの方が契約内容を詳細まで把握していません。
「火災保険に入っているから、燃えた分は全額出るはずだ」
そう信じていたのに、いざ申請してみると「建物だけで家財は対象外だった」「今の家を建て直すには保険金が足りない」「片付け費用は自己負担だと言われた」といったトラブルに直面するケースが後を絶ちません。

火災保険は、単に「燃えたものを直す」だけではありません。
契約の仕方ひとつで、生活再建のスピードと質が劇的に変わります。
この記事では、火事で家が被害を受けた際に「どこまでが補償されるのか」「いくら受け取れるのか」という最も重要なポイントについて、保険証券の読み解き方から、見落としがちな諸費用の請求まで、徹底的に解説します。

この記事でわかる火災保険の全貌

  • 「建物」と「家財」の境界線と、補償漏れを防ぐポイント
  • 同じ全焼でも受取額が変わる?「新価(再調達価額)」と「時価」の決定的な違い
  • 焼け跡の処分費や仮住まい費用をカバーする「費用保険金」の正体
  • もらい火や地震火災における、特殊な補償ルール
  • 保険金請求から着金までのフローと、プロに相談すべきタイミング

「建物」と「家財」は別契約?補償範囲の基本

火災保険において最も基本的なルールですが、意外と見落とされがちなのが、「建物」と「家財」は別々に契約する必要があるという点です。
「火災保険に入っている=家の中のもの全てが守られている」とは限りません。

「建物」に含まれるもの

一般的に「建物」として補償されるのは、動かせないもの、建物に固定されているものです。

  • 本体: 屋根、外壁、柱、床、天井、窓ガラスなど。
  • 付属設備: 畳、建具(ふすま・障子)、作り付けの収納家具、システムキッチン、トイレ、浴槽、洗面台。
  • 電気・ガス設備: エアコン(壁に固定されているもの)、給湯器、インターホン、ソーラーパネル。
  • 屋外設備(※契約による): 門、塀、ガレージ(車庫)、物置、アンテナ。

※注意点:門や塀、車庫などの付属建物については、保険証券に「付属建物を含む」という記載があるか確認が必要です。契約によっては対象外になっている場合があります。

「家財」に含まれるもの

建物の中にあり、動かせるものは「家財」として扱われます。
もし「建物のみ」の契約で、「家財」の契約をしていなかった場合、以下のものは一切補償されません。

  • 家具・家電: テレビ、冷蔵庫、洗濯機、ソファ、ベッド、テーブル、タンス。
  • 衣類・日用品: 洋服、靴、バッグ、食器、布団、カーテン。
  • その他: 自転車(125cc以下の原付含む)、仏壇、楽器。

「明記物件」という落とし穴

家財保険に入っていても、自動的には補償されない「特別なモノ」があります。
これを「明記物件(めいきぶっけん)」と呼びます。

1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、宝石、美術品、骨董品などが該当します。
これらは契約時に「こういう高価なものがあります」と申告し、証券に明記しておかないと、万が一燃えてしまっても補償対象外、あるいは少額(上限あり)しか支払われない可能性があります。

再建できるか?運命を分ける「新価」と「時価」

火災保険の金額設定には、大きく分けて2つの考え方があります。
「新価(再調達価額)」「時価」です。
どちらで契約しているかによって、受け取れる金額に天と地ほどの差が出ます。

理想的な契約:新価(再調達価額)

「新価」とは、「今、同じ建物を建て直す(あるいは同じ家財を買い直す)のに必要な金額」のことです。
築20年の家が全焼した場合でも、新価で契約していれば、同等の新しい家を建てるための費用が全額(保険金額を上限として)支払われます。

近年の火災保険契約は、この「新価」ベースが主流です。
これなら、自己資金を持ち出すことなく、生活を元のレベルに戻すことができます。

危険な契約:時価

「時価」とは、「新価から、経年劣化による消耗分を差し引いた金額」のことです。
簡単に言えば、「今のその建物の古さに応じた価値」しか補償されません。

例えば、新築時に3,000万円で建てた家が、20年後に火事で全焼したとします。
経年による価値の減少が及んでいるため、時価評価では「価値は1,000万円」と判断されるかもしれません。
この場合、保険金は1,000万円しか支払われません。

しかし、実際に新しい家を建てるには、今の建築資材価格で3,000万円以上かかるでしょう。
差額の2,000万円は、すべて自己負担となります。
古い火災保険(特に住宅金融公庫の長期火災保険など、数十年前に契約したもの)は「時価」契約になっているケースが多いため、至急確認が必要です。

修理費以外も出る!見落とせない「費用保険金」

火災保険の支払いは、建物や家財そのものの損害に対する「損害保険金」だけではありません。
それに付随して発生する様々な出費をカバーする「費用保険金」という仕組みがあります。
ここを知っているかどうかで、手元に残るお金が大きく変わります。

1. 残存物片付け費用

火事の後、最も頭を悩ませるのが「焼け跡の片付け」です。
燃え残った木材、コンクリート、溶けたプラスチックなどは、産業廃棄物として処分しなければなりません。
この解体・撤去・搬出・処分費用は、一般的な戸建てでも100万円〜300万円近くかかることがあります。

多くの火災保険では、損害保険金の10%〜30%の範囲で、この「片付け費用」が上乗せして支払われます。
(※実費払いの場合や、上限額が決まっている場合があります)

2. 臨時費用(見舞金)

これは「使い道が自由な上乗せ金」です。
損害保険金にプラスして、10%〜30%(上限100万〜300万円など)が支払われます。
例えば、損害額が1,000万円で、臨時費用特約が30%なら、合計1,300万円が受け取れます。
この300万円は、仮住まいのホテル代、当面の生活費、近隣への挨拶など、何に使っても構いません。
非常に重要な特約ですので、必ず付帯されているか確認しましょう。

3. 失火見舞費用

日本には「失火責任法(失火法)」という法律があり、重大な過失がない限り、自宅から出火して隣家を燃やしてしまっても、法的な賠償責任は負わないことになっています。
しかし、道義的な責任や、今後の近所付き合いを考えると、「法律だから知りません」では済みません。

この保険金は、被害を受けた近隣住民に対して、お見舞金やお詫びの品を持っていくための費用として使われます。
一般的には、被災世帯1つにつき20万〜30万円程度が支払われます。

4. 地震火災費用

ここが最大の注意点です。
通常の火災保険は、地震を原因とする火災(地震火災)を補償しません。
地震でストーブが倒れて火事になった場合、火災保険からは1円も出ないのが原則です(地震保険に入っている必要があります)。

ただし、火災保険の中に「地震火災費用保険金」という特約が含まれている場合、地震保険とは別に、保険金額の5%程度(わずかな額ですが)が見舞金として支払われることがあります。
※建物の再建には到底足りないため、やはり地震保険への加入が必須です。

「全焼」と「半焼」の境界線と支払い額

火事のニュースで「全焼」「半焼」という言葉を聞きますが、保険の世界では認定基準が異なります。
保険金がいくら支払われるかは、損害の認定割合によって決まります。

全損(全焼)の定義

以下のいずれかに当てはまる場合、「全損」と認定され、保険金額の全額(100%)が支払われます。

  • 損害額が、建物の再調達価額(新価)の80%以上になった場合。
  • 焼失・流失した床面積が、全体の70%以上になった場合。

ポイントは「80%以上の損害で、100%出る」という点です。
完全に燃え尽きていなくても、構造体へのダメージが深刻で、修理費用が建て替え費用の8割を超えるなら、それは事実上の全損扱いとなります。
なお、全損認定されて保険金が支払われると、その時点で火災保険の契約は終了(消滅)します。

半損・小半損・一部損

全損に至らない場合は、損害額の割合に応じて分類されます。
昔の火災保険では「半損なら〇〇万円」という定額払いもありましたが、現在の主流である「実損払い(損害保険金)」契約では、実際の修理にかかる費用が(保険金額を上限として)支払われます。

「ボヤ程度だから申請するまでもない」と思わず、煤(すす)による汚れの清掃費用や、消火活動による水濡れ被害なども含めて、きっちり見積もりを出して申請しましょう。

もらい火(隣家からの火災)はどうなる?

「お隣さんが火事を出して、自分の家まで燃え移った」
この場合、相手に弁償してもらえると思っていませんか?
前述の「失火責任法」により、お隣さんに重大な過失(寝タバコや天ぷら油放置など)がない限り、賠償請求はできません。

つまり、「もらい火」で家が燃えても、自分の火災保険を使って直さなければならないのです。
もし火災保険に入っていなかったら、泣き寝入りするしかありません。
「うちは火の気がないから大丈夫」と思っていても、隣家からの延焼リスクはゼロではないため、火災保険は必須なのです。

類焼損害補償特約(逆のパターン)

逆に、自宅が火元となって近所に延焼させてしまった場合。
法律上の賠償義務はありませんが、お隣さんが火災保険に入っていなかったり、補償が不十分だったりすると、ご近所トラブルに発展します。
そんな時、自宅の保険からお隣さんの損害を補償できるのが「類焼損害補償特約」です。
近所付き合いを円滑にするための「思いやり」の特約と言えます。

請求から着金までの5ステップ

万が一被災した場合、どのような手順で手続きが進むのでしょうか。
慌てずに行動するためのフローを確認しておきましょう。

  1. 消防署への連絡と「罹災(りさい)証明書」の発行:
    まずは消防署による実況見分を受けます。その後、消防署(または自治体)で「罹災証明書」を発行してもらいます。これは被害の程度を公的に証明する最重要書類です。
  2. 保険会社への事故連絡:
    代理店またはコールセンターに電話し、火災の日時、状況、被害の概要を伝えます。
  3. 必要書類の提出:
    保険金請求書、罹災証明書、修理見積書、現場写真、家財のリストなどを提出します。
    ※家財リストは、思い出せる限り詳細に書き出すことが、適正な保険金を受け取るコツです。
  4. 鑑定人による調査(立会い):
    保険会社から派遣された「損害保険登録鑑定人」が現地を調査し、被害額を算定します。
    この時、修理業者の見積もりが妥当かどうかがチェックされます。
  5. 保険金の確定・入金:
    鑑定結果に基づき保険金額が提示され、承諾すれば指定口座に振り込まれます。
    通常、請求完了から30日以内に支払われます。

まとめ:保険証券は「生活再建の地図」である

火災保険は、家を建てた時に契約して、そのまま引き出しの奥にしまい込んでいませんか?
しかし、火事はいつ起こるかわかりません。
そして、いざその時が来たとき、あなたを助けてくれるのは、過去のあなたが決めた「契約内容」だけです。

・建物だけでなく、家財もカバーされているか?
・「時価」ではなく「新価」になっているか?
・片付け費用や臨時費用は出るか?

今一度、保険証券を取り出し、この「生活再建の地図」を確認してみてください。
もし内容が古かったり、不足を感じたりした場合は、見直しを検討する絶好の機会です。
正しい知識と備えが、万が一の絶望から、希望への第一歩を守ってくれます。


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