南海トラフ・首都直下に備える!地震保険の選び方と家を守るための活用術

目次

南海トラフ・首都直下に備える:地震保険の「限界」と「役割」の再認識

今後30年以内の発生確率が70パーセントから80パーセントと言われる「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」。これらの巨大災害が発生した場合、広範囲にわたる建物の倒壊や、同時多発的な火災、津波による流失が想定されています。このような未曾有の事態において、生活再建の最後の砦となるのが「地震保険」です。

しかし、多くの契約者が誤解している点があります。それは、「地震保険に入っていれば、家を元通りに再建できる」という思い込みです。公的な制度である地震保険は、あくまで「被災者の生活の安定」を目的としており、火災保険とは異なり、建物の評価額の最大50パーセントまでしか補償されません。つまり、標準的な地震保険だけでは、ローンを返済しつつ新しい家を建てることは経済的に困難な場合が多いのです。

このセクションでは、巨大地震リスクにおける地震保険の本来の役割、火災保険との決定的な違い、そして「最大50パーセント」という補償の限界について解説します。リスクを正しく恐れ、現実的な資金計画を立てるための基礎知識を探ります。


地震保険の特殊性と「生活再建」という目的

火災保険とは根本的に異なる、地震保険独自のルールです。

  1. 「地震による火災」は火災保険では補償されない:
    • 地震の揺れでストーブが倒れて火災が発生した場合や、大規模な延焼火災(地震火災)に巻き込まれた場合、通常の火災保険では免責(補償対象外)となります。地震保険に加入していないと、家が燃えても保険金は1円も支払われません。
  2. 「実際の修理費」ではなく「損害の程度」で支払われる:
    • 地震保険は、修理見積もりの金額を支払うのではなく、建物の損害状況を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4区分(契約時期により3区分)に認定し、その区分に応じた定額(例:全損なら契約金額の100パーセント)を支払う仕組みです。
  3. 補償額の上限は「火災保険の50パーセント」:
    • 法律により、地震保険の保険金額は火災保険金額の30パーセントから50パーセントの範囲内でしか設定できません。また、建物は5,000万円、家財は1,000万円という限度額も存在します。

地震保険は、家の再建費用そのものではなく、当面の生活再建資金として設計されています。


巨大地震リスクと「液状化・津波」への備え

揺れによる倒壊以外にも、想定すべきリスクがあります。

  • 「液状化現象」による傾き被害:
    • 埋立地や河川沿いの地盤が弱いエリアでは、液状化により家が傾く被害が想定されます。地震保険では、建物が沈下または傾斜した場合も、その度合いに応じて「全損」から「一部損」の認定が行われ、補償の対象となります。
  • 「津波」による流失被害:
    • 津波によって家が流されたり、床上浸水したりした場合も地震保険の対象です。ただし、津波は被害が甚大になりやすく、「全損」認定されるケースが多い一方で、50パーセントの補償額では同じ場所に家を建てることは困難である現実を直視する必要があります。

ハザードマップを確認し、自身のリスクに合わせて保険の必要性を判断します。

南海トラフや首都直下地震に備える第一歩は、地震保険の限界を知ることです。地震保険は、地震による火災、倒壊、津波、液状化を補償しますが、その上限額は火災保険の50パーセントに留まります。これは「家の再建」ではなく「生活の再建」を目的としているためです。まずはこの前提を理解し、不足する資金をどう補うかという視点で保険選びを始める必要があります。

🔍地震保険の選び方:「割引制度」と「上乗せ補償」の活用

地震保険は政府と損害保険会社が共同で運営しているため、どの保険会社で加入しても、基本的な補償内容や保険料率(地域と建物の構造による)は同じです。しかし、「どの保険会社でも同じ」だからといって、思考停止してはいけません。建物の耐震性能に応じた「割引制度」の適用漏れがないか、そして50パーセントの補償限界を突破するための「上乗せ特約」を扱っているかどうかが、保険選びの重要な分岐点となります。

このセクションでは、最大50パーセントの割引が適用される耐震等級などの割引制度、不足する再建費用をカバーするための「地震危険補償特約(上乗せ補償)」の仕組み、そして長期契約による保険料抑制効果について解説します。制度をフル活用し、合理的かつ手厚い備えを構築する戦略を探ります。


📉保険料を抑える「4つの割引制度」

建物の性能を証明することで、保険料が大幅に安くなります。

  1. 「耐震等級割引」:
    • 住宅性能表示制度の耐震等級に応じて割引が適用されます。耐震等級3であれば50パーセント、等級2は30パーセント、等級1は10パーセントの割引となります。
  2. 「免震建築物割引」:
    • 「免震構造」の建物である場合、50パーセントの割引が適用されます。
  3. 「耐震診断割引」:
    • 耐震診断の結果、耐震基準を満たしていることが証明された場合、10パーセントの割引が適用されます。
  4. 「建築年割引」:
    • 1981年(昭和56年)6月1日以降に新築された建物(新耐震基準適合)であれば、10パーセントの割引が適用されます。

これらの割引は重複適用できませんが、最も割引率の高いものが適用されます。


📈補償の限界を超える「上乗せ(特約)」の選択

地震保険の50パーセントの壁を突破し、100パーセント補償を目指す方法です。

  • 「地震火災費用保険金」特約:
    • 多くの火災保険に付帯されている特約で、地震による火災で建物が半焼以上になった場合、地震保険金とは別に、火災保険金額の5パーセント程度が上乗せされるものです。これだけでは再建には不十分です。
  • 「地震危険補償特約(上乗せ特約)」:
    • 一部の損害保険会社が独自に提供している特約です。これに加入することで、地震保険の50パーセントに加えて、残り50パーセント分を上乗せし、実質的に火災保険金額の100パーセント(最大)まで補償を受けられるようになります。
  • 「再建費用補償」の重要性:
    • 南海トラフ等の巨大地震では、資材不足による建築費高騰が予想されます。住宅ローンが残っている家庭や、貯蓄に余裕がない家庭では、この「上乗せ特約」の検討が強く推奨されます。

上乗せ補償は保険料が高くなりますが、生活破綻を防ぐ強力な手段です。

地震保険選びのポイントは、建物の性能に応じた「耐震等級割引(最大50パーセント)」などの適用漏れを防ぐことです。また、地震保険単体では補償額が不足するため、資金に余裕がない場合は、民間の保険会社が独自に提供する「上乗せ特約(地震危険補償特約)」を検討すべきです。これにより、地震による損害でも最大100パーセントの補償を受けられる可能性があり、完全な生活再建への道が開かれます。

🏠家を守る活用術:被災後の「一部損」認定と請求テクニック

巨大地震が発生した場合、全壊や半壊といった目に見える大きな被害だけでなく、外壁のひび割れ、基礎のクラック、内壁の亀裂といった「一見軽微に見える被害」も多発します。実は、地震保険の請求において最も多いのが、この「一部損」の認定です。しかし、多くの契約者が「この程度のひび割れでは保険は出ない」と自己判断し、請求を諦めてしまうケースが後を絶ちません。

このセクションでは、地震保険の「一部損(時価の3パーセント以上の損害)」の認定基準、被害を見逃さないためのチェックポイント、そして悪質な「保険金請求代行業者」に騙されず、正当に保険金を受け取るための手続きについて解説します。小さな被害を確実に保険金に変え、それを修繕費に充てることで、次の地震から家を守るための活用術を探ります。


🔎「一部損」は見逃されがち:認定の基準とチェック箇所

全壊でなくても、保険金(契約金額の5パーセント)が支払われる基準です。

  1. 「基礎」のひび割れ:
    • 家の土台となる基礎コンクリートに発生したひび割れ(クラック)は、構造耐力上主要な部分の損傷として扱われます。ヘアクラック(髪の毛ほどの細いひび)でも、数や範囲によっては一部損と認定される可能性があります。
  2. 「外壁・内壁」の亀裂と隙間:
    • サイディングやモルタル外壁のひび割れ、室内のクロスの破れや石膏ボードの隙間も損害の対象です。木造住宅の場合、柱や壁の傾きも計測対象となります。
  3. 「家財」の転倒・落下:
    • 家財の地震保険に加入している場合、テレビの転倒、食器の散乱、家具の移動なども損害としてカウントされます。片付ける前に写真を撮ることが必須です。

自己判断せず、専門家(鑑定人)に見てもらうことが重要です。


📝請求の絶対ルール:写真は「片付け前」に撮る

証拠がなければ、保険金は支払われません。

  • 「発生直後の記録」が命:
    • 地震発生直後、家具が倒れ、食器が割れている惨状を目の当たりにすると、すぐに片付けたくなりますが、その前に必ずスマートフォンで写真を撮ってください。片付けてしまうと、被害の規模を証明できなくなります。
  • 「建物の4面」を撮影:
    • 建物の外観写真は、損傷箇所だけでなく、建物の全景(4方向から)を撮影します。これにより、全体的な傾きや損傷の分布を鑑定人が把握しやすくなります。
  • 「悪質業者」への注意喚起:
    • 大規模災害後は、「保険金を使えば無料で屋根を修理できる」と勧誘し、高額な手数料を請求したり、嘘の理由で申請させたりする悪質業者が横行します。申請は必ず「契約者本人」が「保険会社(または代理店)」に直接連絡して行ってください。代行業者を挟む必要はありません。

正当な権利として、小さな被害でも遠慮なく申請しましょう。

地震保険を賢く活用するためには、「一部損」の認定を勝ち取ることが重要です。基礎のひび割れや外壁の亀裂など、一見軽微な被害でも保険金(5パーセント)が出る可能性があります。重要なのは、被害状況を「片付ける前に写真に残す」ことです。また、申請は代行業者に依頼せず、直接保険会社に連絡し、鑑定人の調査を受けることが、トラブルを避け、適正な保険金を受け取るための鉄則です。

💡「被害なし」判定への対策と、保険金の使い道

地震保険の請求を行い、鑑定人の調査を受けたとしても、結果として「被害なし(損害額が基準に達しない)」と判定されることもあります。しかし、一度の判定で諦める必要はありません。鑑定結果に納得がいかない場合の再鑑定の依頼方法や、無事に保険金を受け取った後の「資金の使い道」こそが、将来の巨大地震から家と命を守るために重要です。

この最終セクションでは、鑑定結果への不服申し立ての手順、受け取った保険金(使途自由)を耐震補強や防災備蓄に投資する「減災サイクル」の考え方、そして被災者生活再建支援制度などの公的支援との併用について解説します。保険金を単なる臨時収入で終わらせず、次なる危機への備えに変えるための戦略を探ります。


🔄鑑定結果に納得できない場合の「再鑑定」

人間の目による調査である以上、見落としや判断の振れ幅は存在します。

  1. 「納得がいかない旨」を伝える:
    • 「被害なし」または想定より低い区分(例:小半損だと思っていたが一部損だった)の連絡が来た場合、保険会社のコールセンターに連絡し、具体的な理由(例:「基礎の深部のひび割れが見落とされている可能性がある」)を添えて、再鑑定を依頼することができます。
  2. 「セカンドオピニオン」の活用:
    • 信頼できる地元の工務店や建築士に損害状況を見てもらい、彼らの意見や見積もりを添えて交渉することも有効です。ただし、成功報酬型の申請代行業者には注意してください。
  3. 「そんぽADRセンター」への相談:
    • 保険会社との交渉が平行線の場合は、日本損害保険協会が運営する紛争解決機関「そんぽADRセンター」に相談・苦情の申し立てを行うことができます。

諦めずに、根拠を持って交渉する権利が契約者にはあります。


🛡️受け取った保険金の「賢い投資先」

地震保険金は使い道が自由です。これを「家の強化」に使います。

  • 「耐震補強工事」への充当:
    • 一部損などで受け取った数十万円の保険金を、屋根の軽量化、金具による補強、ブロック塀の撤去などの「耐震改修」に充てます。これにより、次の巨大地震(本震や余震)での倒壊リスクを下げることができます。
  • 「感震ブレーカー」や「家具固定」:
    • 地震火災を防ぐための感震ブレーカーの設置や、家具の転倒防止器具の購入、窓ガラスへの飛散防止フィルムの施工など、命を守るための防災対策に投資します。
  • 「生活防衛資金」としての備蓄:
    • すぐに修理が必要ない場合でも、将来の巨大地震に備えて、生活防衛資金として現金でプールしておくことも重要な戦略です。

保険金を次の安心へ繋げるサイクルを作ることが、究極の防災です。

鑑定結果に納得がいかない場合は、具体的な根拠を示して「再鑑定」を依頼する権利があります。また、無事に保険金を受け取った後は、それを単なる臨時収入として消費するのではなく、屋根の軽量化や感震ブレーカーの設置といった「耐震・防災対策」に再投資すべきです。この「保険金による減災サイクル」を回すことこそが、南海トラフや首都直下地震という巨大リスクに対し、家と家族を守る最も賢い活用術となります。

マンション居住者の地震保険:「専有部分」と「共用部分」の落とし穴

首都直下地震や南海トラフ地震の影響が懸念されるエリアには、数多くのマンションが立ち並んでいます。戸建て住宅と異なり、マンションにおける地震保険は仕組みが複雑で、管理組合が加入する「共用部分」と、区分所有者が個別に加入する「専有部分」の二階建て構造になっています。この構造を正しく理解していないと、いざ被災した際に「建物は被害を受けたのに保険金が出ない」という事態に陥るリスクがあります。

特に鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションは頑丈であるため、倒壊することは稀ですが、壁の亀裂や配管の損傷といった被害は頻発します。しかし、これらの被害に対する認定基準は戸建てとは大きく異なります。マンション居住者が生活再建資金を確保するためには、管理組合の保険加入状況の確認と、個人の専有部分に対する適切な保険設計が不可欠です。

このセクションでは、マンション特有の損害認定の仕組み、管理組合が入る保険と個人の保険の役割分担、そしてマンション居住者が「家財の地震保険」を最優先すべき理由について解説します。集合住宅ならではのリスクヘッジ戦略を探ります。


「建物」の認定は連動する?共用部分と専有部分の関係

マンションの地震保険請求において最も誤解が多いポイントです。

  1. 「共用部分」の被害認定が鍵:
    • マンションの「建物の地震保険」は、基本的に建物の主要構造部(柱、梁、外壁など)の損害状況を見て認定されます。これらは共用部分に属するため、個人の部屋(専有部分)の内装にヒビが入っていても、建物全体(共用部分)の判定が「一部損」や「被害なし」であれば、個人の建物保険金もそれに連動して支払われない、または少額になるケースがあります。
  2. 「専有部分」独自の被害認定:
    • ただし、専有部分の保険契約においても、個別に鑑定人が調査に入り、専有部分(室内)の壁や床の被害状況を調査することは可能です。しかし、主要構造部ではない「内装材」や「間仕切り壁」の損傷は、地震保険の認定基準においては評価が低くなりがちで、認定のハードルが高いのが現実です。
  3. 管理組合の加入状況の確認:
    • 管理組合が共用部分に対して地震保険に加入していなければ、エントランスや外壁の修復費用は、居住者からの「修繕積立金」や「一時金徴収」で賄うことになります。被災後の追加負担を避けるため、総会資料などで管理組合の保険加入状況(保険金額や特約の有無)を必ず確認してください。

マンションの建物保険は、戸建てに比べて認定のハードルが高い傾向にあります。


マンションこそ「家財」の地震保険が命綱となる理由

建物の認定が難しい分、家財での請求が重要になります。

  • 高層階の「揺れ」による家財被害:
    • マンション、特に高層階は、免震・制震構造であっても長周期地震動などで大きく揺れ、家具の転倒や家電の破損、食器の散乱といった「家財の被害」が甚大になる傾向があります。
  • 認定の独立性:
    • 家財の地震保険は、建物の損害認定とは全く無関係に査定されます。つまり、建物が「被害なし」と判定されても、室内のテレビが倒れて壊れていれば、家財保険で「一部損」や「小半損」の認定を受け、まとまった保険金を受け取れる可能性が高いのです。
  • 生活再建の即効薬:
    • マンション居住者にとって、最も確実性の高い資金確保手段は家財保険です。建物保険だけに頼らず、家財の保険金額を上限(1,000万円または家財評価額の50パーセント)まで手厚く設定することが推奨されます。

マンション防災の要は、実は建物よりも「家財」の補償にあります。

マンション居住者は、建物の地震保険認定が「共用部分」の損害状況に左右されやすく、個人の専有部分だけの被害では認定されにくいという構造的リスクを理解すべきです。その対策として、管理組合の保険加入状況を確認すると同時に、個人の保険では「家財」の補償額を最大化することが重要です。高層階特有の激しい揺れによる家財被害をカバーすることで、確実に生活再建資金を確保しましょう。

🔍家財保険の査定基準:何をどう見ているのか?

地震保険において「家財」の補償が重要であることは前述しましたが、実際にどのような基準で査定が行われるのかを知っている人は多くありません。家財の査定は、個々の物品の購入価格を積み上げるのではなく、「品目ごとのポイント制」で損害割合を算出する独自の方式が採用されています。

このセクションでは、家財の分類カテゴリー、損害の認定基準(全損・半損などの判定方法)、そして食器や衣類といった細かい物品がどのようにカウントされるかについて詳しく解説します。査定の仕組みを知ることで、被災時に何を証拠として残すべきかが明確になります。


家財の「5分類」とポイント積算方式

鑑定人は家財を以下の5つのカテゴリーに分けてチェックします。

  1. 「食器・陶器類」:
    • 食器、花瓶、ガラス製品などが含まれます。棚から落ちて割れたり、ヒビが入ったりした場合にカウントされます。
  2. 「電気器具類」:
    • テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パソコン、ステレオなどが対象です。転倒して破損したり、動かなくなったりした場合にカウントされます。
  3. 「家具類」:
    • タンス、食器棚、ベッド、机、椅子などが含まれます。倒れたり、扉が歪んで開かなくなったりした場合が対象です。
  4. 「身の回り品(衣類・寝具類)」:
    • 洋服、靴、鞄、布団などが対象です。津波による汚損や、家具の下敷きになって破れたり汚れたりした場合にカウントされます。
  5. 「その他」:
    • 書籍、カメラ、楽器、スポーツ用品などが含まれます。

これらのカテゴリーごとに、所有している家財全体のうち何パーセントが損害を受けたかを算出します。


損害認定のポイントと「セット」の考え方

査定を有利に進めるための知識です。

  • 「一つでも壊れれば全損扱い」のケース:
    • 例えば、5枚セットの皿のうち1枚が割れた場合、セットとしての機能が損なわれたとして、そのセット全体が損害としてカウントされる場合があります。また、整理ダンスが倒れて傷がついただけでも、機能や美観が損なわれたとして損害認定されることがあります。
  • 「経済的損害」ではなく「物理的損害」:
    • 地震保険の家財査定は、購入金額の高い・安い(高価な骨董品か100円ショップの皿か)は関係なく、「生活に必要な家財がどれだけ損害を受けたか」という物理的な割合で見ます。高価な絵画が一つ無事でも、大量の日常食器が割れていれば、損害割合は高くなります。
  • 「片付けない」ことの重要性・再確認:
    • 食器類や小物類は、割れると危険ですぐに片付けたくなりますが、これらを廃棄してしまうと査定不能になります。どうしても片付ける場合は、割れた食器の山をカテゴリーごとに写真に撮り、全体のボリュームがわかるように記録してください。

家財の査定は、見た目の派手さよりも「数と割合」で決まります。

家財保険の査定は、食器、電気器具、家具、衣類、その他の5カテゴリーごとに損害割合を算出するポイント制で行われます。金額の多寡ではなく、生活用動産としての機能喪失が基準となるため、セット商品の皿が一枚割れただけでもカウントされる可能性があります。高価な一点物よりも、日常品の広範な被害が認定額を押し上げる要因となるため、割れた食器や倒れた家具は、必ず片付ける前に詳細な写真を撮り、被害の全体量を証明できるようにしましょう。

💰地震保険料控除と地域別リスク:経済的メリットとコスト構造

地震保険は「万が一の備え」であると同時に、毎年の「節税対策」としても機能します。国は地震保険の加入を促進するために「地震保険料控除」という制度を設けており、支払った保険料に応じて所得税や住民税が軽減されます。また、地震保険料は地域(都道府県)と建物の構造によって大きく異なるため、自分の住む地域のリスクランクを知り、長期契約によるコストダウンを図ることも賢い活用術の一つです。

このセクションでは、年末調整や確定申告で申請できる地震保険料控除の具体的な計算方法と節税効果、地域ごとの「等地(リスクランク)」による保険料格差、そして保険料の値上げリスクに備えるための長期契約戦略について解説します。支払う保険料と戻ってくる税金をトータルで考え、経済合理性のある保険運用を目指します。


📉毎年使える節税枠「地震保険料控除」

加入しているだけで得られる、確実な経済的メリットです。

  1. 所得税の控除額:
    • その年に支払った地震保険料の全額が所得から控除されますが、最高限度額は**50,000円**です。例えば、課税所得が高い層であれば、実質的に年間数千円から1万円程度の節税効果になります。
  2. 住民税の控除額:
    • 支払った地震保険料の2分の1が控除されますが、最高限度額は**25,000円**です。
  3. 申請の方法:
    • 毎年10月頃に保険会社から送られてくる「地震保険料控除証明書」を、年末調整の書類に添付するか、確定申告時に提出するだけで適用されます。数年分を一括払いしている場合でも、毎年その年分に相当する金額を控除できます。

この制度を活用することで、実質的な保険料負担を下げることができます。


🌍住む場所で倍以上違う?「等地」と保険料の仕組み

地震リスクの高い地域ほど保険料は高くなります。

  • 「等地(リスク区分)」の存在:
    • 地震保険料は、政府の地震調査研究推進本部による地震予測地図などを基に、都道府県ごとにリスクに応じた「等地(1等地〜3等地)」に区分されています。
  • 南海トラフ・首都直下エリアの高騰:
    • 東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、大阪府、高知県などは、地震リスクが最も高い「3等地」に分類されており、リスクの低い地域と比較して保険料が3倍近くになる場合もあります。これから移住や住宅購入を検討している場合は、この保険料差もランニングコストとして考慮する必要があります。
  • 「長期契約」による値上げ対策:
    • 地震保険料は、リスク評価の見直しにより数年ごとに改定(値上げ傾向)されています。最長5年(2024年時点)の長期契約を結び、一括払いすることで、**長期係数による割引**が適用されるだけでなく、**契約期間中の保険料値上げの影響を受けない**というメリットがあります。

リスクの高い地域に住むからこそ、長期契約でコストを固定化戦略が有効です。

地震保険に加入することで、所得税(最大5万円)と住民税(最大2万5千円)の**地震保険料控除**を受けることができ、実質的な負担を軽減できます。保険料は地域ごとの地震リスク(等地)によって大きく異なり、南海トラフや首都直下地震の想定エリアは最も高い料率が設定されています。保険料は今後も上昇傾向にあるため、**最長5年の長期契約**を選択して割引を受けつつ、期間中の保険料を固定化することが、コストを抑える賢い戦略です。

🚨公的支援制度との併用:保険金だけでは足りない時

どんなに賢く地震保険を選び、上乗せ特約をつけたとしても、巨大地震による被害は想定を超え、保険金だけでは生活再建に十分な資金が賄えない可能性があります。そのような事態に備え、地震保険とセットで理解しておくべきなのが、国や自治体による「公的支援制度」です。これらは自動的に支給されるものではなく、被災者自身が申請しなければ受け取れないものがほとんどです。

この最終セクションでは、最大300万円が支給される「被災者生活再建支援制度」の仕組み、災害時に利用できる「災害復興住宅融資」、そして税金の減免措置について解説します。自助(保険)と公助(制度)を組み合わせた、完全なセーフティネットの構築を目指します。


🏛️最大300万円支給「被災者生活再建支援制度」

全壊などの大きな被害を受けた世帯に対する給付金です。

  1. 支給の対象:
    • 自然災害により住宅が「全壊」した世帯、「大規模半壊」した世帯、あるいは「中規模半壊」などでやむを得ず解体した世帯などが対象です。地震保険の認定区分とは異なる独自の基準(自治体の罹災証明書に基づく)で判定されます。
  2. 「基礎支援金」と「加算支援金」:
    • 被害の程度に応じて支給される「基礎支援金(最大100万円)」と、住宅を再建・購入・補修する方法に応じて支給される「加算支援金(最大200万円)」の2段階構成になっており、合計で最大300万円が支給されます。
  3. 使途の自由:
    • この支援金は使途が限定されておらず、住宅の再建費用の不足分に充てることも、当面の生活費に充てることも可能です。地震保険金と併せて受け取ることができます。

罹災証明書を取得し、速やかに申請することが必要です。


🏦災害復興住宅融資と税金の減免

資金繰りを助けるための金融・税制支援です。

  • 「災害復興住宅融資」:
    • 住宅金融支援機構などが提供する制度で、罹災証明書を持つ被災者が、住宅を再建・購入するための資金を**通常の住宅ローンよりも有利な低金利**で借りることができます。高齢者向けには、毎月の返済を利息のみとする「リバースモーゲージ型」の融資もあります。
  • 「雑損控除」と「災害減免法」:
    • 災害によって住宅や家財に損害を受けた場合、確定申告を行うことで、所得税の全部または一部が軽減・免除される制度です。地震保険金で補填されなかった損失額を所得から差し引くことができます。

公的支援は「申請主義」です。知っている人だけが救済されます。

地震保険で賄いきれない損害に備え、公的支援制度を把握しておくことが重要です。住宅が全壊や大規模半壊した場合には、**「被災者生活再建支援制度」により最大300万円**が支給されます。また、住宅再建のための**「災害復興住宅融資」**や、税負担を軽減する**「雑損控除」**などの制度も利用可能です。これらは全て**罹災証明書**に基づく申請が必要となるため、発災後は速やかに行政の窓口で手続きを行い、自助と公助を最大限に活用して生活再建を目指しましょう。


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